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名古屋高等裁判所 平成6年(ネ)315号 判決

控訴人

株式会社上野メタレックス

(旧商号・上野金属産業株式会社)

右代表者代表取締役

小田保中

右訴訟代理人弁護士

波多野健司

被控訴人

株式会社住総

(旧商号・株式会社住宅総合センター)

右代表者代表取締役

山本弘

右訴訟代理人支配人

江﨑孝

右訴訟代理人弁護士

加藤知明

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一  控訴の趣旨

一  原判決を取り消す。

二  被控訴人の請求を棄却する。

三  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

第二  事案の概要

一  前提となる事実関係

1  本件土地建物の競売に至る経緯

(一) 名古屋市名東区猪高町(もと千種区)大字猪子石字八前三三番田五五八平方メートルの土地は、もと岸田みよが所有していた土地に相当するが、名古屋市猪子石土地区画整理組合(以下「整理組合」という。)は、その土地区画整理事業の換地計画において、右土地を保留地(ブロック番号二七八、仮地番一一の三、地積112.40平方メートル)として定めていた(以下これを「本件保留地」という。)ところ、整理組合との間で本件保留地を買い受ける旨の契約を締結していた養城商事株式会社は、昭和四九年五月二九日、櫻井雄三との間に本件保留地を売り渡す旨の契約を締結し、整理組合は同日その譲渡を承認した。(甲第四号証の一、二、第六号証、第八号証、乙第一号証、弁論の全趣旨)

(二) 櫻井雄三と同しげのは、昭和四九年五月九日、本件保留地上に別紙物件目録記載二の建物(以下「本件建物」という。)を新築し、同月二七日これにつき所有権保存登記(持分各二分の一)を経由した。(甲第四号証の二、弁論の全趣旨)

(三) その後、株式会社シンコーホームは、櫻井雄三との間に本件保留地を買い受ける旨の契約を締結するとともに、櫻井雄三と同しげのから本件建物を買い受け、昭和五七年二月四日、松本臣弘(以下「松本」という。)との間に本件保留地及び本件建物を売り渡す旨の契約を締結し(整理組合は同年七月一五日櫻井雄三から松本に対する本件保留地の譲渡を承認した。)、松本は同年六月二四日、本件建物についてのみ、櫻井雄三と同しげのから共有者全員持分全部移転登記を経由した。(甲第四号証の二、第八号証、弁論の全趣旨及びこれにより原本の存在と成立の認められる甲第五号証の一)

(四) 本件建物については、別紙建物抵当権目録記載のとおり抵当権又は根抵当権の設定登記が経由されているところ、被控訴人は、昭和五七年六月二四日に同目録記載(一)の抵当権設定登記(同六二年七月九日後記本件土地を共同担保として付記登記で追加している。)を経由した第一順位の抵当権者であり、株式会社小河商店は、同五八年一〇月三日に同目録記載(三)の根抵当権設定登記を経由した第二順位の根抵当権者(第二順位であった株式会社シンコーホームの抵当権は平成元年一二月一五日抹消ずみ)であり、控訴人は、昭和六二年四月六日に同目録記載(四)の根抵当権設定登記(本件土地に対する後記根抵当権と共同担保)を経由した第三順位の根抵当権者である。(甲第三号証の二、争いのない事実)

なお、松本は、昭和五七年二月、本件保留地及び本件建物の購入資金借入れのため本件建物につき被控訴人と右第一順位の抵当権設定契約を締結した際、被控訴人に対し、本件保留地につき登記が可能となり次第速やかにその土地を追加担保に供する旨を約した。(成立に争いのない甲第一号証、弁論の全趣旨及びこれにより成立の認められる甲第七号証)

(五) 本件保留地は昭和六一年五月三日土地区画整理法の換地処分によって別紙物件目録記載一の土地(以下「本件土地」という。)となり、本件土地につき同年一一月一七日に整理組合の所有権保存登記が経由されたが、松本は同年五月三日の売買により本件土地の所有権を取得し、同六二年一月二八日その旨の所有権移転登記を経由した。(争いのない事実)

(六) 本件土地については、別紙土地抵当権目録記載のとおり抵当権又は根抵当権の設定登記が経由されているところ、控訴人は、昭和六二年四月六日に同目録記載(一)の根抵当権設定登記を経由した第一順位の根抵当権者であり、被控訴人は、同年七月九日に同目録記載(二)の抵当権設定登記(本件建物に対する前記抵当権と共同担保)を経由した第二順位の抵当権者である。(争いのない事実)

2  本件配当異議に至る事実経過

(一) 執行裁判所(名古屋地方裁判所)は、平成三年四月に控訴人の申立てにより本件土地建物に対する不動産競売手続(同庁平成三年(ケ)第九〇号)を開始し(以下これを「本件競売事件」という。)、同年九月九日、本件土地建物を一括売却に付することとし(物件明細書の「地上権の概要」欄には「なし」と記載された。)、その最低売却価額を四五九〇万円、各不動産に対応する売却代金の額を算定する際の基準となる不動産ごとの最低売却価額(以下「個別価額」という。)を本件土地につき二〇二三万円、本件建物につき二五六七万円と決定したのち、同四年五月一日、右最低売却価額を三六五五万円、右個別価額を本件土地につき一六九〇万円、本件建物につき二〇三六万円に変更し、さらに、同年一二月二四日、本件建物のため本件土地に法定地上権が成立することを前提にして算定した評価人の評価補充(土地のみ売却の場合一一六一万円、建物のみ売却の場合一四三九万円、一括売却の場合二九二五万円)に基づいて、右最低売却価額を二七四五万円、右個別価額を本件土地につき一三〇六万円、本件建物につき一四三九万円に変更する旨の決定(以下「第二次変更決定」という。)をした。(甲第一〇、第一二号証、弁論の全趣旨)

(二) 執行裁判所が第二次変更決定の最低売却価額により本件土地建物を期間入札に付した結果、代金三二〇〇万円で羽田総業株式会社に対する売却許可決定が確定し、その売却代金納付を経て、平成五年五月二五日、本件土地建物につき所有権移転登記が経由された。(争いのない事実)

(三) その後、執行裁判所は平成五年六月一六日、法定地上権が成立しないことを前提にして算定した評価人の第二次評価補充(土地のみ売却の場合二七一六万円、建物のみ売却の場合一六二万円、一括売却の場合二九二五万円)に基づいて、第二次変更決定の個別価額のみを本件土地につき二七一六万円、本件建物につき一六二万円に変更する旨の決定(以下「第三次変更決定」という。)をした。(甲第一〇、第一三号証、弁論の全趣旨)

(四) 平成五年九月二四日の本件競売事件の配当期日において、執行裁判所は、別紙配当表(本件配当表)及び案分計算結果一覧表記載のとおり、第三次変更決定の個別価額によって、一括売却代金三二〇〇万円(手続費用九三万三九五八円)を本件土地の売却代金三〇一九万八七四九円(手続費用割付額八八万一三八六円)と本件建物の売却代金一八〇万一二五一円(同五万二五七二円)に案分し、本件土地につき第一順位の根抵当権者である控訴人(債権額は元本五〇〇〇万円)に対する配当額を二九三一万七三六三円(本件土地の売却代金から手続費用割付額を減じた残額全部)、本件建物につき第一順位の抵当権者である被控訴人(債権額は執行費用五万九八二三円・残元本一一八七万四五三五円・最後の二年分の損害金三四七万二一一四円の合計一五四〇万六四七二円)に対する配当額を一七四万八六七九円(本件建物の売却代金から手続費用割付額を減じた残額全部)とする旨の本件配当表を作成したが、被控訴人は、本件配当表における控訴人に対する配当額二九三一万七三六三円のうち、被控訴人が自己に配当を受けるべき債権額と主張する一五四〇万六四七二円から被控訴人が現に配当を受けた一七四万八六七九円を控除した一三六五万七七九三円につき異議の申出をした。(争いのない事実)

(五) 被控訴人の本訴請求は「本件競売事件につき平成五年九月二四日に作成された本件配当表の「配当等」の欄のうち、控訴人への配当額二九三一万七三六三円とあるのを一五六五万九五七〇円に、被控訴人への配当額一七四万八六七九円とあるのを一五四〇万六四七二円にそれぞれ変更する。」との判決を求めるものであり、原判決は右請求を認容した。

二  本件の争点

1  第三次変更決定の適否(一括売却後の個別価額変更の可否)

(一) 被控訴人の主張

第三次変更決定は、民事執行法八六条二項前段に違反し、許されないものである。

すなわち、不動産が一括して売却された場合に、各不動産ごとの売却代金の額の算定(割付け)をする基準となるのは、各不動産ごとの最低売却価額である個別価額であるところ、そもそも最低売却価額は、売却が許可されるべき価額の最低限を意味する概念であるから、これを売却許可決定による代金の納付後に変更することは論理的に許されないのみならず、実質的に考えても、もしこれが許されるとすれば、抵当権者が不動産ごとの個別価額に基づく配当(債権回収)を期待して入札に参加し、最高価買受人となって代金を納付したのに、右個別価額が変更された結果、極めて少額な配当しか受けられないという事態が生じるのを避けられず、右抵当権者に不測の損害を被らせることになって不当であるから、個別価額(割付率)を代金納付後に変更することは、民事執行法八六条二項前段に違反し、許されないというべきである。

(二) 控訴人の反論

民事執行法六〇条二項には「執行裁判所は、必要があると認めるときは、最低売却価額を変更することができる。」と明記されているところ、第三次変更決定は、執行裁判所が当初法定地上権の成立を前提にして個別価額を決定したものの、その後に法定地上権が成立しないことが判明し、当初の個別価額が不適正となったためになされたものであって、まさに変更の必要があった場合であるから、何らの違法もない。

2  法定地上権の成否

(一) 被控訴人の主張

仮に、第三次変更決定の如き個別価額の変更が許されるとしても、本件土地につき本件建物のための法定地上権が成立しないことを前提として個別価額を変更した第三次変更決定には、その前提において誤りがあり、その変更にかかる個別価額も不当である。

すなわち、被控訴人が松本所有の本件建物に抵当権設定登記を経由した昭和五七年六月当時、その敷地(本件保留地)も実質的には松本の所有であり、それが換地前であった関係で所有権移転登記が不可能であったに過ぎないから、既に法定地上権成立の要件を充足していたというべきであり、しかも、控訴人が本件土地及び本件建物に根抵当権設定登記を経由した昭和六二年四月当時には、本件土地建物は名実ともに松本の所有に属していたのであるから、この根抵当権設定時に法定地上権成立の要件を充足していたことは明らかであって、何ぴとの申立てによる競売であっても、本件土地には本件建物のための法定地上権が成立するというべきである。

(二) 控訴人の反論

本件のような場合に本件建物のための法定地上権を認めることは、他の抵当権者、特に土地に対する抵当権者の利益を著しく害する一方で、建物に対する先順位抵当権者を不当に利する結果となるから、各抵当権者間の利益の調整及び取引の安全等の観点からしても、本件建物のため本件土地に法定地上権を認めることは誤りである。

第三  当裁判所の判断

一  まず、争点1(第三次変更決定の適否―一括売却後の個別価額変更の可否)について検討する。

1 不動産を一括して売却した場合にその代金を配当するに当たり各不動産ごとに売却代金の額を定める必要があるときは、売却代金の総額を各不動産の個別価額に応じて案分した額を各不動産ごとの売却代金として(民事執行法八六条二項前段)、配当表を作成しなければならない。

個別価額は、不動産ごとの無剰余判断の基準となり、個別売却においては最低売却価額であり、一括売却においては売却代金割付けの基準となるから、その決定をする場合には、民事執行法六〇条一項に則り、評価人の評価に基づいて定めなければならない。

そして、最低売却価額は、それが不動産競売手続において果たす機能の重要性にかんがみ安易に変更することは許されないが、執行裁判所において必要と認めるときは変更をすることができる(同法六〇条二項)ところ、その時期を制限する明文の規定はないので、一括売却(及び代金納付)後に売却代金割付けの基準の変更を目的として、その変更決定をすることができるかどうかが問題となる。

しかし、個別価額は、通常、売却実施命令の公告には記載されないが、同命令の利害関係人に対する通知(民事執行規則三七条)に記載され、その決定に対しては、最低売却価額についてと同様に利害関係人から異議(民事執行法一一条)を述べることができるのであり、この異議の当否は執行裁判所によって判断される。このようにして以後の売却及び配当の手続においてよるべき基準となった個別価額を売却後や代金納付後に変更することは、利害関係人の信頼を裏切るものであり、また、民事執行法八六条二項前段を空文化することになるから、許されないと解するのが相当である。そして、このような一括売却後の個別価額の変更決定がなされた場合には、配当表作成に当たり、右変更決定の効力はないものとして、変更前の個別価額に基づき売却代金の割付けをすべきものである。

なお、右のような個別価額の変更が許されないと解する以上、仮に個別価額の決定に誤りがあった(例えば、土地と建物を一括売却するに当たり、法定地上権が成立しない場合であるのに、成立することを前提として個別価額が決定されたような場合)としても、配当表作成に当たり、個別価額を基準としないで代金割付けをすることも許されないと解すべきことはいうまでもない。

2  右のように解した場合、執行裁判所による個別価額の決定に誤りがあったとしても、配当表作成の段階で右決定の誤りを正す方法はないことになる。

そして、その結果、誤った個別価額に基づく配当が実施されることになり、ある債権者は本来受けるべきであった配当額を超える配当(以下「有利な配当」という。)を受け、他の債権者は本来受けるべきであった配当額に不足する配当(以下「不当な配当」という。)を受けるといった場合も生じうることになる。

このような過誤配当の結果が生じたとしても、配当手続には各債権者の私法上の権利の存否及び内容(権利の種類・優先順位・債権額等)を確定する効果はないので、配当終了後、不利な配当を受けた債権者は有利な配当を受けた債権者に対して、不当利得返還請求をすることができる(最判平成三年三月二二日民集四五巻三号三二二ページ)から、救済の手段がないわけではない。

しかし、これは救済手段としては迂遠であるから、配当段階で配当に対する異議の申出があり、不当な配当を受ける債権者が原告となり有利な配当を受ける債権者を被告とする配当異議の訴えが係属するに至った場合には、右訴訟において、執行裁判所が定めた個別価額にかかわりなく、当事者が私法上有すると認められる権利の内容に従って個別価額の決定(割付け)を改め、配当表の変更を命ずることができないかどうか、検討の余地がある。

配当異議の訴えは、配当表の変更・取消しを求める形成訴訟であるが、債権者が提起したこの訴えにおいては、異議者とその相手方との間だけで相対的に解決されるものであり、提訴の証明期間の制限(民事執行法九〇条六項)、最初の口頭弁論期日に原告が出頭しないときの訴えの却下(同条三項)のような特別規定が置かれていることは、この訴えが迅速な配当の実現を目的としていることを示している。しかしながら、このような特色をもつとはいえ、配当異議の訴えにおいては、執行裁判所の配当期日における配当異議の申出についての審理が配当期日中に制限された証拠方法のみによってしなければならないのに対し、主張と証拠方法に制限のない通常の民事訴訟手続によって審理判断することができるのであり、この訴えの確定判決には債権者の権利の存否及び内容等について既判力は働かないにしても、訴えの当事者間においては、判決が結論の前提とした債権者の権利の存否及び内容等についてこの判断と相反することになる不当利得返還請求などの後訴を提起することは信義則上許されないと解されるから、債権者が提起したこの訴えにおいては、訴えの当事者に関する限り、配当をめぐる権利関係の争いは終極的に解決されるものといえる。

そうであるとすれば、売却代金の割付けをめぐる争いも、代金が配当されたのちの不当利得返還請求訴訟によるよりは、配当異議の訴えにおいて同時に解決される方が訴訟経済に資するだけでなく、当事者にとっても利益である。

したがって、配当異議の訴えにおいては、民事執行法八六条二項前段の規定は適用されず、執行裁判所が同条同項前段に従って作成した配当表における売却代金の割付けを正しい権利関係に従って変更することができると解するのが相当である。

二  右に判示したところによれば、第三次変更決定による個別価額変更は違法であり、変更後の個別価額に従って売却代金の割付けがされた配当表に対し異議の申出がされた場合、配当異議の訴えにおいては、売却代金の割付方法の適否を執行裁判所の個別価額の決定に拘束されることなく判断することができるところ、本件訴訟においては法定地上権の成否をめぐって割付方法の適否が争われているのであるから、右の点について判断すべきことになる。

そこで、以下、争点2(法定地上権の成否)について判断する。

1 建物について第一順位の抵当権が設定され登記されたのち、土地の所有権移転により土地とその地上建物の所有者が同一人となり、その後他の債権者のために土地及び建物を共同担保とする抵当権が設定され登記された場合(いわゆる建物抵当型)に、その抵当権が実行され、売却に至ったとき、民法上の法定地上権が成立するかというのが本件の問題である。

このように、建物について一番抵当権が設定された当時、土地と地上建物の所有者が異なるため法定地上権成立の要件が欠けていた場合であっても、土地と地上建物が同一人の所有に帰したのち、更に土地又は地上建物に後順位抵当権が設定され(以下「二番抵当権」という。)、これについて法定地上権成立の要件が充足されていれば、法定地上権が成立すると解する見解が少なくないが、その理由としては、抵当権実行の結果すべての抵当権が消滅すること、二番抵当権設定時には土地と建物が同一人の所有であって法定地上権の成立要件を充足していること、法定地上権の成立を認めることにより一番抵当権者に予期した以上の利益を与えることはあっても不利益を与えるものではないことが挙げられている。

しかしながら、土地につき一番抵当権が成立したのちに土地と地上建物が同一人の所有となり、土地建物の一方又は双方に二番抵当権が設定された場合(いわゆる土地抵当型)については、法定地上権が成立すると更地としての担保価値を把握していた一番抵当権者を害するからとの理由で法定地上権の成立が否定されることには異論がない。

したがって、建物抵当型において法定地上権の成立を肯定する見解は、土地建物の所有者同一性の基準時を二番抵当権成立時に求める点で、土地抵当型の場合(この場合は一番抵当権成立時が基準時とされている。以下「一番抵当基準時説」という。)と異なり、首尾一貫しない。

また、この見解は、一番抵当権者を害さないことを理由とするけれども、法定地上権の成立を認めた場合に土地所有者に不測の不利益を及ぼす危険(建物所有者が借地権を有していたときは、借地権より強力な地上権に転化するし、賃借権承継時に土地所有者が期待できる譲渡承諾料も失う。建物所有者に土地利用権がなかったときや使用貸借権であったときは、不利益は更に大きい。)を考慮していないといわなければならない。

そもそも、建物抵当型において一番抵当権者が抵当権を取得するときは、建物所有者がその敷地について有する約定土地利用権の存否及び内容を調査し、土地利用権を伴うものとしての(又は伴わないものとしての)建物の担保価値を信頼して抵当権の設定を受けるはずであり、強いて法定地上権の保護を与える必要はないのである。

以上の理由から、建物抵当型で原則的に法定地上権の成立を認める見解によるのは相当ではなく、法定地上権の成否を検討する上においては、自己借地権が原則として認められない法制の下で、建物の存続を図ることの外に、各関係者間の利益の調整及び取引の安全を確保する見地から、第一順位で抵当権を設定する債権者と債務者がどのような担保価値が把握されることを意図していたか及び後順位の権利者や関係者にとって先順位抵当権が把握する担保価値の内容をどのように見込むことができたかの点を考慮して、一番抵当基準時説を形式的に適用することの弊害を個別的に調整する方法によるのが相当である。

2 本件において、松本は、本件保留地及び本件建物の購入資金を被控訴人から借り受けるに当たり、本件建物に第一順位の抵当権を設定するとともに、本件保留地についても登記が可能となり次第追加担保に供する旨を被控訴人に約したものであり、このことは本件建物が取り壊されることを是認するものではなく、これを本件土地の利用権付のものとすることを被控訴人に約束したものに外ならないところ、本件保留地は昭和六一年五月三日換地処分により整理組合が所有権を取得すると同時にその所有権は松本に移転した(これと同時に本件土地を目的とする被控訴人の抵当権も効力を生じた)ものである。

この場合、被控訴人及び松本においては抵当権が実行されて本件建物のみが売却された場合にも土地利用権付の建物として売却されることを予定していたことは明らかであるし、本件土地が保留地であって、被控訴人が本件建物について抵当権設定を受ける時点では換地前のため、松本か本件土地について所有権移転登記を経由してはいなかったものの、その後松本が所有権移転登記を経由した本件土地の登記と現況を一瞥するならば、本件建物が土地区画整理の進行中に整理組合の承諾の下に本件保留地上に新築され、本件建物について住宅ローン貸付を主たる業務とする被控訴人の抵当権が説定されていて、本件保留地の換地と同時に本件土地は本件建物のための土地利用権の負担を受けるであろうことは、本件土地について取引関係に立とうとする誰の目にも明らかであったものと推認できる。そして、二番抵当権者である控訴人も、土地建物を共同担保として根抵当権を取得した事実に照らすと、本件土地の更地としての担保価値を把握しようとしたものではなく、本件建物の土地利用権の負担つきの土地として本件土地の担保価値を把握することを意図したものと推認できる。

このような事実関係の下では、本件建物につき法定地上権の成立を認めることは、関係当事者の期待に合致し、取引の安全を損なわず、かつ、建物の存続という社会経済上の要請にも沿うものであるから、本件配当においては、本件建物につき法定地上権が成立するものとして売却代金の割付けをするのが相当である。

三  そうすると、本件配当においては、本件土地及び本件建物の各売却代金の額を、法定地上権が成立することを前提とした第二次変更決定の個別価額に基づいて算定すべきところ、本件土地建物の売却代金三二〇〇万円から手続費用九三万三九五八円を控除した三一〇六万六〇四二円を、本件土地の右個別価額一三〇六万円と本件建物の右個別価額一四三九万円で案分すると、本件土地の売却代金は一四七八万〇四一九円、本件建物の売却代金は一六二八万五六二三円となるから、本件建物につき第一順位の抵当権者である被控訴人に対しては、執行費用五万九八二三円・残元本一一八七万四五三五円・最後の二年分の損害金三四七万二一一四円の合計一五四〇万六四七二円を配当すべきである。

したがって、本件配当表は、被控訴人の請求どおりに変更すべきものである。

四  よって、右と同旨の原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官稲守孝夫 裁判官小松峻 裁判官松永眞明)

別紙〈省略〉

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